0人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっちゃんが欲しいんだって。お前にはやらないよ」
片足のかかとを踏みながら、勝手知ったる狭い八百屋の通路をスルリと抜けて、潤は幸子の前に現れた。
「はい。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます。あれっ一本多い。おじさん」
「いいの、いいの。さっちゃんが食べてくれたら、焼き芋よく売れるんだよ。いつも、ありがとね」
「ありがとうございます」
優しい誠司の言葉に、丁寧に頭を下げる幸子。
「今日は店手伝えないなんて、潤、デートだったらそう言いなさいよ」
店先でデリカシーゼロのオカン田中 佳子(たなか よしこ)の大声に凍りついた潤。
真っ赤な顔で、ギュッと焼き芋の袋を抱きかかえた幸子。
「オカンっ。違うわ。さっちゃん、早く行こっ」
「おじさん、おばさん、ありがとうございます」
幸子はもう一度丁寧に頭を下げて、潤の後を追った。
「いってらっしゃいーじゅんー晩御飯いるのぉー」
佳子は、再びデリカシーゼロの声かけで、二人を送り出した。
「いらねーよー。行ってくます」
二軒先の漬物屋の前で振り返って返事をした。
隣を歩く幸子は、くすくすと笑っている。
(オカン、勘弁してくれよ)
恥ずかしさで幸子の顔が見れない。
最初のコメントを投稿しよう!