運命の人

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「さっちゃんが欲しいんだって。お前にはやらないよ」 片足のかかとを踏みながら、勝手知ったる狭い八百屋の通路をスルリと抜けて、潤は幸子の前に現れた。 「はい。熱いから気をつけてね」 「ありがとうございます。あれっ一本多い。おじさん」 「いいの、いいの。さっちゃんが食べてくれたら、焼き芋よく売れるんだよ。いつも、ありがとね」 「ありがとうございます」 優しい誠司の言葉に、丁寧に頭を下げる幸子。 「今日は店手伝えないなんて、潤、デートだったらそう言いなさいよ」 店先でデリカシーゼロのオカン田中 佳子(たなか よしこ)の大声に凍りついた潤。 真っ赤な顔で、ギュッと焼き芋の袋を抱きかかえた幸子。 「オカンっ。違うわ。さっちゃん、早く行こっ」 「おじさん、おばさん、ありがとうございます」 幸子はもう一度丁寧に頭を下げて、潤の後を追った。 「いってらっしゃいーじゅんー晩御飯いるのぉー」 佳子は、再びデリカシーゼロの声かけで、二人を送り出した。 「いらねーよー。行ってくます」 二軒先の漬物屋の前で振り返って返事をした。 隣を歩く幸子は、くすくすと笑っている。 (オカン、勘弁してくれよ) 恥ずかしさで幸子の顔が見れない。     
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