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「なんで、雪?」
潤は、告白の緊張で天気のことを気にする余裕もなかった。テレビもつけていただけで見ていなかった。
「晴れてたんだよ。でも、急に雪が降り出したの」
幸子は自分の傘を半分潤にかけた。相合傘だ。
「いい、いい、いい、いい」
恥ずかしさのあまり、 首がぽろっと、もげそうなぐらい、ブンブン首を横に振った。
「コンビニで買って来る」
猛ダッシュで走るが積雪に何度か足をとられた。好きな人の前では、絶対に転けられない。強い思いで何とかコンビニに辿り着いた。
が、ドアの前で滑って転けた。
潤 第一の悲劇だ。
「潤君、私と……嫌なのかな」
幸子は傘を見上げてから、寂しげに潤のよろよろした後ろ姿を見つめていた。
「嘘だろー」
まさかの傘完売。潤 第二の悲劇が待ち受けていた。
「カッパはカッパありますか」
「何すっか」
レジから顔だけ出して、ロック命バンドマン風の店員がボソッと返事をした。
「カッ、いやレインコートだよっ」
「ああ……無いっす」
潤 第三の悲劇だ。
「あそこにもあるな」
潤がコンビニを出ようとドアに手をかけた時
「無理っす」
レジから出てきたバンドマン。
「他寄って来る人もいるし……無いっす。よそも」
潤 第四の悲劇だ。
「なんで、傘の発注もっとしなかったんだよ。儲け時だろうが」
「知らないっすよ。オーナーにも同じ事言われたっす」
バンドマンに怒ってもしょうがない。
「ごめん。言い過ぎた。こんな天気になるなんて、わからなかったよな。すまん」
潤はオーナーに怒られたバンドマンが気の毒になって、つい責めてしまった自分を反省していた。
「いやっ、俺天気に敏感なっすよ。今日雪が降るの知ってたっす」
「じゃあ。仕入れとけよっ。その能力つかって天気予報士になれよ」
「天気わかるんすけど、俺馬鹿なんすよ」
「じゃ……無理か」
「無理っす」
二人はあまりの無能な会話に笑い出していた。
潤 第五の喜劇で丸く収まって、コンビニ劇場は幕を下ろしたかに思えたが、
「ヤバイっすよ」
バンドマンの呟きから、潤の運命の舵が一気に荒波に切られた。
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