古本に挟まれた栞

3/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
数日後、私の元に一冊の本と栞が送られて来た。本は新品で栞には文字が書かれていた。 『栞を見つけてくれ嬉しいよ。まだ見つけていない栞が有るので、もし探す気が有るのなら、この本と同じタイトルの古本を見つけて欲しい。私はこの悪戯を始めてからずっと誰かが栞を見つけて探してくれるのを待ち望んでいた。どうか最期迄この悪戯に付き合ってくれる事を祈りながら待ち続けさせて貰う』 「待つ?何か含みが有る気がする。こうなったら最後まで付き合おうじゃないの!」 私は栞を胸に抱きながら古本屋巡りをするのだった。 途中、別タイトルで同じ作者の古本を見つけたので買ってみると、栞が挟まっていた。書かれている内容はそのタイトルにちなんだ呟きだった。この人は悪戯を思いついてからどれだけの時間、思いを馳せていたのだろう? 古本屋を巡る私の旅は終着点に着いた様だ。遂に送られて来た本のタイトルが古本で売られていた。買ったその場で本を開き、栞に書かれている内容を見た。 『この栞は何枚目だろうか?私がこの栞に込めた思いは誰かに見つけて欲しい。そして願わくば私に会いに来て欲しい。文句でも何でも構わない、どんな事でも良いから話をしてみたい。私は此処でアナタが来てくれるのを待っている』 性別は関係無いのかな?偶々女の私が栞に気付いたけれど、男の人が見つけても嬉しかったのだろう。見つけてくれた相手と話をしてみたい気持ちは私にも解る。 栞に書かれていた場所に向かう。きっとこの人は今日もこの場所で誰かが来てくれる事を夢見ながら待っている筈だから。 「貴方がこの本の作者で栞を挟んだ人ですか?」 「ようこそお嬢さん。こんなおじさんで驚いたかい?その栞は私が物書きになってすぐの頃だから、もう数十年も前なんだよ」 私は最初に買った古本の奥付の日付を思い出した。確かに初版が数十年も前のものだった。 「貴方は此処で何十年も待っていたんですか?」 「そうだよ。あの頃は駆け出しで若くも有り、スランプに陥っていたんだ。そんな時に栞を挟んだ悪戯を思いついてね。何時見つかるか、何時来るかも解らない夢みたいな事に私は心踊ったよ。それからはスランプも無くなり、今も物書きで居られたのさ」 「この栞は私にとって大切な物になりました。古本屋で貴方の本が無いか探している間、嫌な事も忘れて夢中になれたんです。素敵な時間をくれてありがとうございました」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!