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翌日は、ポカポカとした太陽が顔をのぞかせていた。
寒そうに固くつぼんでいたタンポポは、金色に輝く花びらを開いて、春のお告げを聞いた昆虫たちを誘う。木々の皮の間や土の中から、もぞもぞと現れる小さな生き物たちがそこかしこと、歩き回っている。
ふもとの春は、丘の上の展望台にもじきやって来るだろう。
フウヤは展望台のもっと高いところにいて、薄く伸びた鱗雲を散りじりに吹き飛ばしていた。
「フウヤ、お前も北の国に行かなきゃ。ほとんどの北風たちはもう行ってしまったぞ」
ショーヤが心配して声をかけると、
ー 僕はここを離れない
フウヤは僕の体にまとわりつくみたいに、足元まで降りてきて、また空へと吹き上がった。
「このままじゃ、あいつは消滅しちゃうよ。ユウスケ、どうしよう。あいつを北へ行かせなきゃ」
ショーヤはすがるような目をして僕を見てから、上空を仰いだ。
僕は「そうだね」って、一緒に心配しているそぶりをしながらその実、重苦しくじりじりしていた。
このところ寝る前に咳が出る。
その度に、力が弱まってきたんじゃないかって、怖くてたまらないんだ。
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