可哀想な運命と引きかえに、与えられる奇跡

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僕はさっきまでの息苦しさが嘘みたいに、ずんずん丘を上がっていった。 そして展望台に到着すると、真っ先に眼下を眺めた。 セセリ川の桜並木は見事に満開で、その姿はまるで巨大な桜色の竜が町中を蛇行しているようにも見える。 僕はその見事な「桜竜」を吸いつくように眺めた。 ショーヤが「風邪をひくといけないから、そろそろ帰ろう」と言っても、もう少し眺めていたかった。 暖かい日差しで川面をキラキラと輝やかせていた太陽は、山の後ろに隠れようとしている。 今度は僕らを赤色と金色で眩しく照らし始めた。 目を細めて光を仰ぎ見れば、山の上は薄雲が帯を作っているし、いつの間にか頭上のてっぺんは群青色で覆われていた。 ふもとから上がる風が足元にかかり、ぶるりと体が震えた時、フウヤの声が聞こえて来たような気がした。 「ショーヤ、今、フウヤの声が。……聞こえた?」 振り向くと、ショーヤは大きく首を振っている。 「ユウスケ、もう、フウヤは……」 そしてみるみる、真っ赤に染まった瞳に涙が溢れる。 僕は胸に手を当てた。まだ、フウヤは僕の中にいる。 ついに僕はフウヤを飲み込んでしまった。あんなに欲しかったフウヤの力。 この桜を見るだけのために、手に入れたかった力。 フウヤは僕のために消えた。 じゃあ、僕は? 傲慢なこの結末が許されるためには、僕は死ななきゃいけない。 そうだ。そのつもりだった。 春が終わるころフウヤの力も弱まり、発作が起きた時病院へ行かなければ、今度こそ僕は死んでしまうだろう。 桜が散る頃に、今度はひとりでここへ来よう。きっと途中で…… …………いやだ。 身体がガタガタ震えた。 「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、……ごめん、フウヤ」 柵に手をかけたまま、しゃがみこんだ。 僕は死にたくない! 僕は死にたくない! ツバメは少年のために自分の命と引きかえに、少年に奇跡を起こした。 少年は死んでしまって、ツバメと一緒に天国へ行った。 それなのに、僕は。 「ぼくは、ぼくは、死にたくない! もっと生きていたい! フウヤ、君にもらったこの奇跡のまま、生きていたい!」 ごめん、フウヤ。 ずるい僕で…ごめんなさい。
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