7人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
春が来る
ここのところ、風の声が騒がしい。
春風の到来が、いつもより少しばかり遅れているようだ。
北風たちは春風に押し出されるように、この町を離れ更に北の町へと移動する。
当然北風のフウヤも、みんなと一緒に北の国へ行く、はずなんだけど。
つい昨日のことだ。内緒話をするように僕の耳元にやって来たフウヤは、とんでもないことを言い出した。
ー 僕がユウスケの体の中に入ろうか?
そうすればユウスケは、春の間じゅう元気でいられると思うんだ
。。
本来北風の力は、雪の結晶の中に紛れている。だから雪が溶けると、北風の力も一緒になくなってしまう。
春になり雪が溶け、北風がみんないなくなってしまったら、この力は自然と消えてしまうだろう。そう北風の長老が言っていたとか。
もともと北風の力とは、冬限定の力なのだそうだ。
最初にこの話を聞いたとき、ショーヤは泣きながら悔しがった。
あんまりショーヤが泣くもんだから、ショーヤが病気になってしまうかと心配したほどだった。
ー ユウスケ、ごめん
フウヤは悲しそうな声で、僕にあやまった。
「いいんだよ。僕は健康な体を手に入れた。たとえ冬の間だけだったとしても」
そうさ。この力はいわば魔法。ただ、元の僕に戻るだけだ。
今は毎日だって、この展望台に上がって来られる。このお気に入りの場所に。
それを幸せだと思わなきゃいけない。
最初のコメントを投稿しよう!