第5章 蓮子の秘密

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 委員長が入院することになった。  昨日の夜、家で具合が悪くなって、そのまま病院に運ばれて入院したそうだ。  クラスの子たちがあちこちで噂話をしている。  少し前からお腹が痛いとよく話していたらしい。  斎藤くんは病院に行ったほうがいいと言ったけど、部活に塾に委員長の仕事と毎日が忙しくて、病院に行けてなかったみたい。  そういえば、蓮子さんが少し前に、女子委員長になにか言っていたのを思い出した。気をつけろとかなんとか。あれはなんだったのかなあ。  ふと、教室の花瓶を見ると、花がしおれていた。なんだろう、見たことのある花だ。  蓮子さんの席まで立って行った。きっと蓮子さんならこの花を知っている。  花瓶のほうを見てから蓮子さんのほうを見た。蓮子さんは唇の端を少しだけ上げた。微笑ってやつだ。 「カモミールだ」  私が聞くより先に蓮子さんが答えた。カモミール。名前は知ってる。 「花言葉は……『苦難に耐える』だ」  小さな声で蓮子さんが呟いた。私は委員長の席を見た。委員長になにかあったのかと思って。 「違うぞ」  蓮子さんの顔を再び見ると、蓮子さんは首を振って静かに答えた。 「委員長は、頑張り屋で、ずいぶんと無理をしていたんだ。ストレスだな。痛みが胃か腸辺りにきているから、胃潰瘍か十二指腸潰瘍じゃねえか? 安心しな、入院したらすぐに良くなるさ」  そうだったの。委員長が? 私、全然気づかなかったなあ。蓮子さんは、すぐに人の変化に気がつくのね。  そういえば、こないだ蓮子さんに「新しい消しゴムを買って喜んでるのかよ? 幸せそうだな」って言われたけど、どうして分かったんだろう? 蓮子さんってなんでもお見通しなのね。 「ほら、もうチャイムが鳴るぞ」  蓮子さんにせっつかれて、私は急いで自分の席へと戻った。
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