何時ですか? ・・・そいつは今夜もやってくる

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「それだけなら奇人変人のたぐいで、ひとくくりかもしれません。  何といっても、おかしな手合いが山ほどいるこの頃ですから。確率の問題というヤツで店舗商売にはつきもの。そんな考え方だって、できなくはない。もっとアブナイ連中にくらべれば、ずっとマシだという考え方もね。  ほんとうに解せなくてーーそうだ。僕の神経に障ったのはそこじゃない・・・」  トン、トン、トン、トン・・・  テーブルの表面を叩く島田青年の細い指先。単調な動作は次第に速さを増してゆくのだ。  『パーカー男』。  黒く薄いパーカー姿で、いつもフードを目深にかぶっている男。そいつを島田青年は、いつしか内心でそう呼ぶようになっていた。  性別以外は本名、年齢、住まい、職業、そしてN書店にやってくる理由ーー何も分からない。  が、島田青年が解せないのは、それ以前の部分だったのだ。  ーー何時ですか?  いつも。そう言われるまで、男が店に入ってきたことに気がつかない。  いつも、だ。  確かに最初の夜同様に、院関係の資料を熱心に読んでいる時もある。  PCで商品関係の入力に、かかりきりの場合もある。が、いつもーーというのは異常だ。  逆に身構えて、そろそろ来るんじゃあないか。そんなことを考えている夜には、けっして現れはしない。けっして。  それから男が現れる時は、必ず店内の1Fには島田青年しかいない。他の来客は途切れている。奥さんは階上にあがっている。そんな一瞬の間隙を、どこかで見すましているかのように、  すうっ  と現れてーーあの声が響くのだった。壊れた笛みたいに、かぼそい声が。  最初は妙だと思った。次に薄気味がわるくなっていった。彼の体験が事実ならば、当然過ぎるだろう。そうして・・・。
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