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がらんとして、他の客の姿がほとんど見当たらないーーちいさな喫茶店の隅にあるテーブルで。
島田(仮名)青年は語る。
「ええ。半年ほど前ですが、その書店でバイトをしていたんです。
ン・・・新刊書店じゃありません。古書店ーー古本屋ですよ、
ネットで募集を見つけたんじゃなくて。
別の用事で、あそこの商店街界隈を通る機会が多くて。そうしたら偶然、窓の貼り紙に目がいって。それが縁ってやつで。
今、思い返すとあの店ーーずっと店員募集の貼り紙を貼っていましたね。
それと気がつくまで、内容なんか読んだことがなかった。
けれど。そう、同じ貼り紙だった。
そうです。常時ーーと言っていいくらい・・・・・・」
島田青年は某大学の大学院生だった。
生真面目そうな態度としゃべりかた。そして端正な顔立ちの青年である。
向学心は人一倍。しかし、反比例して懐はいつも寒かったそうだ。しかも諸事情で実家とは没交渉同然。
だからーーバイトをせざるを得なかったし、その経験は幅広かった。飲食店。コンビニ。家庭教師・・・。
その内の一つが古書店の店員だったわけだ。
現在、『町の古本屋』というものは、すごい勢いで姿を消しつつある。
新刊書店ですら淘汰される時代なのだ。全国展開しているような新古書店ならともかく、個人経営の店の内情は推して知るべきなのかもしれない。
とはいえーー消滅するのは『店舗』であって。ネット販売等で存続している古書店も少なくはないという。
島田青年がバイト採用された店は、住居一体型の店舗とネット販売。両方を行うタイプの店だったようだ。
それは東京近郊の寂れたーーおろされたままのシャッターが目立つ、駅前商店街の一角にあった。
「シャッター街、とまではいかなくても・・・周囲には貸物件の表示が目だっていましたね。本当に潰れたのか、移転したものか。
でも、その店は売り上げは悪くなかった。
周囲には例の、誰でも知っている大型店舗がありませんでしたし。けっこう昔からやってる店で固定客がついている。
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