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ン・・・年配層中心ですけどね。
どれだけネット通販が普及しても、古書っていうのはーー何て言ったらいいのかな。
店をハシゴしたり。漁ること自体が目的というファンが多い。今現在でも。昔ほどではなくても。
だから出版氷河期ですか。こんなご時世でも商売の方は、なんとか。
もちろん、店側の努力や時代への適応力ーーですか。そいつがモノをいうんですが」
店の経営は、うまくいっていた。
それでも島田青年は、結果的に比較的短期間でその店を辞めてしまったのだ。
これまでの彼のバイト歴でも同僚との相性がよくなかったり。待遇が事前に説明されていたものと大きく異なるなど、色々なことがあったようなのだが。
「人間関係ですか? 良好でしたよ。
初老のオーナー夫婦以外には僕しかいない店だったので。同僚間の摩擦のたぐいなんかは、そもそも起きようがない。
ン・・・気づいているでしょうね。
僕は自分で言うのも何だけれど、神経質で細かいことにこだわる性格です。
こだわりが非常に強いんです。
あと、自分で納得しないと物事を進めることができなかったり。
人からも何かにつけて指摘されてきました。几帳面とかーーそういったレベルじゃないってね。
それで。
確かに今まで勤め先ではトラブルに遭うことも多かった。
様々なバイト歴があるのは、一つには融通のきかないこの性格のためですよ。自分でも分かってる。
でも。その店はその意味では居心地がよかったんです。
ご主人も奥さんもよくできた人だったし。特に奥さんはPC関係が苦手だったから、その方面では僕に一任してくれて。
あと、暇なときには院関係の勉強とかしてもかまわない。そうも言ってくれました。
ありがたいですよね。これで不平不満を言ったらバチがあたりますよ。
そうだ。居心地はよかったんですよ。とても。
そうだ。アレさえ。あんなことさえなければ・・・・・・」
島田青年は、細長い指先でーー自分の前にあるテーブルの表面を
トントン
と叩くのだった。
その店ーー仮にN古書店としておこう。
N古書店は、昼過ぎから夜の11時くらいまで営業している。
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