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ーー何時ですか?
島田青年は顔をあげた。
男が一人、レジの横に立っていた。
黒くて薄いパーカー姿だ。
背が低く・・・しかもフードをすっぽりとかぶっているので、顔がほとんどうかがえない。
レジスペースは床から二段ほど高くなっている。だからレジに座った状態でもお客とほぼ顔をあわせることになるのだけれどーーそれでも。
わずかにのぞく鼻から下の様子から推せば、島田青年とさほどかわらない年齢だろうか。
顎が尖り、こけ気味の頬が神経質な印象を与える。そして、ザラザラとした肌が青白い・・・。
「ン・・・神経質。僕が言うのはおかしいんですけれどね」
そう言って島田青年はうっすらと笑うのだった。
話を戻そう。
声をかけられて顔をあげた時、島田青年は少し驚いた。
その男はたった今、店に入ってきたに違いない。
店のなかはーー1Fはーー自分一人だけだったはずだから。
けれど、自動ドアは開かなかったはずだ。
最新式とはおせじにも言えないそれは、それなり以上に作動音が響く。開閉すれば気がつかないはずはない。
(ン・・・いや、どうだろう。資料を読むのに没頭していたからな)
かぶったフードも気に入らなかった。それまで経験はなかったが、時間も時間だし、物騒なやからという可能性も頭をよぎった。もっとも長身の島田青年に対して、相手は小柄でパーカーの下の体格もほっそりしているのだが。
ーー何時ですか?
とっさに思いをめぐらせる島田青年をよそに、再び男のフードの下から声が流れてくる。
か細いーーそれでいて妙に耳に残る、おかしな声なのであった。
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