何時ですか? ・・・そいつは今夜もやってくる

8/15
前へ
/15ページ
次へ
「あいつがやってくる以外の時間であっても、だんだんおかしなことになってきたんです。  店内で棚の整理をしていると、なんだか背後に誰かの気配がしたり。かぼそい息づかいが聞えてきたり。  脚立に乗っての作業中に、すぐそばを誰かが、  スーッ  と、通り過ぎるような風を感じたり。  ハッ、として振り向くでしょ? 誰も・・・そこには、いやしない。  平積みにした本が、勝手にドサッと崩れることも多くなっていきました。  もちろん、温度変化や何かの振動で崩れることはありますよ。それは、ある。  でも、アレはそんな感じじゃなかった。何か所も離れたところにある本が次々と勝手に・・・」  まるで。  店内に島田青年やオーナー夫婦以外にーー眼には見えない何者かが存在しているかのような?  息をひそめて・・・どこかに・・・じっと。 「ン・・・ありえない。常識的にはその通りですとも。僕だって、N書店で働く以前ならたわごとだと一蹴していた。  でも、色々なことがあって。ほんとうに色々なことを見聞きしているうちに、そんな考えがふくらんでいったんです。くそ。  馬鹿げていますよね。でも考えはとり憑いて、どうしようもなかった。くそっ。  僕だって学究の徒ですよ。もう死語かもしれないけれど。ゆくゆくは、この道で身を立てたいとさえ思ってる。  そんな自分が『幻の気配』や『そこには存在しない何か』に脅かされて。  体調もだんだん、おかしくなって。  子供か神経の細い女の子みたいに。店内に独りでいることに、次第に耐えられなくなるなんて。  くそっ。  確かに僕は神経質だ。それは認める。けれど、こいつはむちゃくちゃだ。  不条理だ。理不尽だ。  あの『パーカー男』から始まって・・・そんな。そんなことは」  トントントントントントントン!!  島田青年の内心の嵐なのか。テーブルを叩く指先はまるで乱打だった。突き指をしないのが不思議であった。  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加