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「あいつがやってくる以外の時間であっても、だんだんおかしなことになってきたんです。
店内で棚の整理をしていると、なんだか背後に誰かの気配がしたり。かぼそい息づかいが聞えてきたり。
脚立に乗っての作業中に、すぐそばを誰かが、
スーッ
と、通り過ぎるような風を感じたり。
ハッ、として振り向くでしょ? 誰も・・・そこには、いやしない。
平積みにした本が、勝手にドサッと崩れることも多くなっていきました。
もちろん、温度変化や何かの振動で崩れることはありますよ。それは、ある。
でも、アレはそんな感じじゃなかった。何か所も離れたところにある本が次々と勝手に・・・」
まるで。
店内に島田青年やオーナー夫婦以外にーー眼には見えない何者かが存在しているかのような?
息をひそめて・・・どこかに・・・じっと。
「ン・・・ありえない。常識的にはその通りですとも。僕だって、N書店で働く以前ならたわごとだと一蹴していた。
でも、色々なことがあって。ほんとうに色々なことを見聞きしているうちに、そんな考えがふくらんでいったんです。くそ。
馬鹿げていますよね。でも考えはとり憑いて、どうしようもなかった。くそっ。
僕だって学究の徒ですよ。もう死語かもしれないけれど。ゆくゆくは、この道で身を立てたいとさえ思ってる。
そんな自分が『幻の気配』や『そこには存在しない何か』に脅かされて。
体調もだんだん、おかしくなって。
子供か神経の細い女の子みたいに。店内に独りでいることに、次第に耐えられなくなるなんて。
くそっ。
確かに僕は神経質だ。それは認める。けれど、こいつはむちゃくちゃだ。
不条理だ。理不尽だ。
あの『パーカー男』から始まって・・・そんな。そんなことは」
トントントントントントントン!!
島田青年の内心の嵐なのか。テーブルを叩く指先はまるで乱打だった。突き指をしないのが不思議であった。
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