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彼は『怪異』というものを容易に信じなかった。
むしろ、一連のことごとを熟考し。
合理的な答えを導き出そうと、繊細な神経が焼けつくほどに努力したことは想像に難くない。
結果、その時点で彼が最もおそれていたのは。いつのまにか自分が、それまで指摘されてきた神経質という名の停留所をとっくに通過していて。
自分でも気がつかないうちに狂気の淵まで、たどりついているのではないか。
その可能性であったのだろう。
奇妙ではあっても、偶然の可能性が捨てきれないことごとを勝手に解釈し。
本来、つながらないそれらを異常に連結させて。
正気を酸みたいに侵すストーリーを組み立てているとしたら。万一、そうであったなら。
ぜんたい、どうしたらいいのか?
これは島田青年一人にとどまらない。常時ストレスに苛まれている、我々すべてに通じる可能性なのだ。
彼は最初に『パーカー男』が現れ。訪れ続け。さらに店のなかが異様に変質していくなかで約2カ月は耐えた。
そうして。
ついに一部始終を、雇い主の一人である奥さんに打ち明けたのだった。
説明するには、ゆうに半時間以上が必要であった。
「電波系。イタイ奴。アブナイ人間。そう思われても仕方がない。
そうでしょう? 二人はほんとうに僕によくしてくれたんですから。
・・・・・・でも」
奥さんは笑いとばしもしなかったし、〇〇〇〇を見る目で島田青年を見ることもなかった。
最後まで親身に彼の話を聞いた上で、なにごとか考え込むのだった。
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