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ばいばい私の月ライオン
ぽっかりと下弦の月が浮かんでいる。
一面の雪野原だ。
私と、友達のライオンは新雪をさくさくと踏み固めながら進む。
ちらちらと降る粉雪は、月の光を反射してきらきらと光った。
その光の粒は、フワリと光って蛍になる。
「雪は音を吸収するね」
ライオンはゆっくりとしゃべった。白い息がフワリと浮かんで、やがて宙へ消えた。
「そうだね」
わたしは答える。私の息も白く浮かんで、フワリと消える。
わたしたちの周りを、蛍は音もなく飛んでいく。飛ぶというよりは、浮かんでいるようにも見える。
蛍たちは、しばらくそうしてから少しずつ光の粒子になり、月へ帰る。
「蛍ははかないね」
「いや、そんなこともないさ、また月へ帰るだけなのだから」
そういうライオンのたてがみには、雪の結晶がいくつもこびりついていた。
「寒くない?」
「ちっとも」
ライオンは笑って足をすすめた。
その分厚い肉球は、寒さをも通さないのだろうか。
私は大きく、分厚い黒いコートごと身体をぎゅっと縮めた。
芯から冷えるような寒さ。
見上げると、天宙に月。半月になっている。
蛍はたくさん生まれ、そしてまたたくさん月に帰っていく。
ことわりだからだ。
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