【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

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 午前十時──。 約束した時間丁度に、一慶がやって来た。 カジュアルだが仕立ての良い白のジャケットと、黒のシャツに黒のボトムを合わせたシックな装いの彼は、端正な顔立ちがより引き立って見える。  片や。薙は、全身を落ち着いたデザインで品良く纏め、いつに無く大人っぽい雰囲気に仕上げていた。短い髪を耳に掛け、小さなバッグを提げている。  その上。今日は、人生初のメイクアップにも挑戦した。 肌に軽く乗せたルースパウダーも、グロスを塗った唇も、全て苺の指示通りである。自力で、此処まで身支度が出来た事に、薙自身が一番驚いていた。  ──果たして。 彼の目に、自分はどう映っているのだろう? 自身の身形について、こんなにも他人の目を気にした事は無い。高まる緊張は、既に極限に達している。ここまで気持ちが追い詰められたのは、大学の入試発表以来だ。 「へぇ…そう来たか。」  言い付け通り『めかし込んで』来た彼女を見るなり、一慶は僅かに目を細めて呟いた。自分がどう評価されたのか図りかねて、薙は彼の表情を窺う。 「変、かな?」 「いや、悪くない。ちゃんと女に見える。」 「…誉めてないよね、それ?」 「誉めているだろうが、最大級に!」 「百歩譲っても、そうは聞こえない!!」 「お前、難聴なんじゃないの!? 良い医者を知っているから、紹介してやろうか?? 坂井総合病院と言ってな、腕も口も達者な副院長がいるんだ。」 「へぇ、奇遇だね。その病院なら、ボクも良く知っているよ。腕も口も達者な副院長がいて、それがまた空前絶後のドSなんだ。」 「良いのか、お前…そんな事言っちゃって? 祐介に、お仕置きされるぞ??」 「それなら一慶も同罪だよ。一蓮托生で結構じゃないか。」 「……」 「……」  二人の間に、一瞬、鼻白んだ空気が漂う。いつもの他愛ない軽口が、今日は何処かぎこちなかった。
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