【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

225/327
前へ
/856ページ
次へ
「それで、何処に連れて行ってくれるの?」  気まずさと照れ臭さから、素っ気ない口調で訊ねる薙に、一慶は小さく笑って言った。 「そうだな。折角、余所行きの格好をしたんだし、演奏会にでも行ってみるか?」 「演奏会?」 「あぁ。知り合いのヴァイオリニストが、チャリティー演奏会を企画したんだ。俺も誘われたんだが、出演の方は丁重にお断りした。代わりに、チケットを押し付けられたよ。」  「ほら」と、彼が内ポケットから取り出したのは、クラシック・コンサートのチケットであった。薙はパチクリと目を瞬かせる。 「チケットが二枚?」 「そうなんだ。聴きに来るなら、パートナーを連れて来いとさ。嫌味だろう?」  そう言うと、一慶は辟易した様に肩を上げる。『パートナー』という言葉に、特別な含みがあるらしい事は、鈍感な薙にも何と無く解った。だから、思わず訊ねてしまう。 「それ…ボクで良いの?」 「クラシックが嫌いじゃなければな。」 「嫌いじゃないよ、好き。」 「じゃあ付き合え。演奏会と言っても、ファミリー向けの気楽なコンサートだから、畏まる必要は無い。テレビCMで良く耳にする曲ばかりだ。」 「ファミリー向け…。じゃあ、お客さんも親子連れが多いのかな??」  「そうだろうな」と答えた一慶を見て、薙は大いに安堵した。デートなどと言われて、必要以上に緊張していたが、アットホームなコンサートと知るや、急に気が楽になる。 そういうコンセプトの演奏会なら、会場内も賑やかだろうし、妙に互いを意識する事も無いだろう。
/856ページ

最初のコメントを投稿しよう!

717人が本棚に入れています
本棚に追加