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市街地から車を飛ばして数十分。
噎せ返る様な緑の呼気が満ちる高台に、特徴的な建物が見えて来た。
精神障害者施設『わかばの園』──。
四方を山で囲まれた其処は、宛ら森の古城である。
煉瓦造りの外壁と、高い尖塔。
まるで、絵本の中に迷い込んだ様な可愛らしい建物には、様々な理由から現実世界を離脱してしまった老若男女が暮らしていた。
メルヘンチックな外観を一目見るなり、薙は感嘆の声を洩らす。
「可愛い建物だね。外国のお城みたいだ。」
「わかばの園は、通称を『森の城』と言うんだ。最新の医療ケアを受けられるだけじゃなく、障害者の自立支援も積極的に行っている。ここの代表者は、伸さんの親友なんだ。」
「親父の!?」
「あぁ。お袋に譫妄症状が現れ始めた時、伸さんがこの施設を紹介してくれたらしい。孝之の親父は、暫くそれを拒んでいたが…結局は、お袋の入所を決意した。」
「──どうして?」
「手に負えなくなったんだよ。事実、お袋の暴れ方は尋常じゃなかった。俺も、子供心にその時の様子を覚えている。親父が目を離した僅かな隙に…お袋は俺の首を締めた。あの日のお袋の顔は、一生忘れられない。本気で俺を殺すつもりだったんだろうな。まるで、鬼の様だった。」
「………。」
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