【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

228/327
前へ
/856ページ
次へ
 またひとつ、彼の傷痕を見た気がした。 辛かった筈の過去を、一慶は何処までも淡々と語ってくれる。 そうして彼の痛みに近付く度に、薙の胸は切なく疼いた。 この深い哀しみと絶望を、取り除く事など出来るのだろうか──? 寧ろ、不用意に触れてはならない気がする。  何と無く自信を失い掛けた、その時。 沈んだ空気を払拭する様に、一慶が薙の肩をポン!と叩いた。 「受付は向こうだ。行くぞ。」 「うん…。」  二人は、速やかに面会の手続きを取った。 建物の中は明るく清潔で、広々としている。 ゆったりと流れるオルゴールのBGMと、仄かに香るアロマ。採光を考慮した丁寧な設計が、治療に最適な環境を生み出していた。 「綺麗な施設だね。まるでリゾートホテルみたいだ…」  誰にともなく呟く薙に、案内の女性職員が、にこやかに答える。 「有難うございます。皆さん、そう仰有いますよ。『わかばの園』は、ホスピタリティを重視した施設なんです。明るく開放的な環境で、心身共にリラックス出来る様、工夫されているんですよ。」  そう言うと、女性職員は所内を簡単に案内してくれた。幾つもある作業室では、比較的軽度な病状の入所者達が、社会復帰の為の職業訓練を受けている。  木工や部品の組み立て、裁縫、手芸、調理、彫金など…多様な職種の訓練が、いつでも自由に受けられるのである。中には、絵画や彫刻などの芸術活動に(いそ)しむ者もいた。  
/856ページ

最初のコメントを投稿しよう!

717人が本棚に入れています
本棚に追加