【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

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 慎重に歩み寄ると、一慶は母に声を掛けた。 「久し振り。」  彼女は、ゆっくりと顔を巡らせる。そして目があった途端、虚ろだった顔がパッと輝きを帯びた。 「慶之(よしゆき)さん!やっと会いに来てくれた!!」  母・美野里は、夫に生き写しの息子を見て、嬉しそうに微笑んだ。彼女の世界は、慶之が謀叛(むほん)を起こす前の、『幸せな過去』のまま止まっている。一慶を、亡き夫・慶之だと(かたく)なに思い込んでいるのだ。 「酷いわ、慶之さん!私を独りぼっちにして。今まで一体、何処で何をしていたの!?」 「ごめん。仕事が忙しくて…」  殊勝に頭を提げる一慶に、美野里は尚も恨み言を重ねる。 「私の事なんて忘れていたんでしょう?」 「そんな事ないよ。」 「嘘。手紙ひとつくれなかったじゃない。」  拗ねる美野里は、まるで十代の娘の様だった。彼女の中には、慶之の死に纏わる記憶など、片鱗も残っていない。新婚当初の満たされた時間だけが、永遠にループしている。  一慶は、甘える様な眼差しを投げる母親に、優しく微笑を返して言った。 「これからは気を付けるよ。ちゃんと連絡する。」 「嘘ばっかり!慶之さんは、いつもそうやって誤魔化すんだから!!」  プイと横向く美野里に、一慶は困った様な笑みを履く。それから、肩越しに薙を振り返って手招きした。 「薙。」 「う、うん。」
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