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「…付き合わせて悪かった、驚いたろう?」
「ううん、平気…。」
「折角のデートなのに、妙な空気になっちまったな。気を悪くしたか?」
その問いに、薙はふるふると首を振った。
美野里の奇行に驚いたのではない。
凍らせた時間の中で、永遠に慶之を愛し続ける彼女を、有りの侭に受け入れている一慶と孝之の愛情の深さに感動したのだ。
「一慶は苦しくないの?」
「俺よりも、孝之の親父の方が辛いだろう。お袋は、親父と再婚した事をすっかり忘れている。ただの幼馴染みという認識しか無いんだ。」
「おっちゃんと美野里さんは、幼馴染みだったの?」
「あぁ。亡くなった父を含め、親父や伸さんとは、ガキの頃から仲が好かったそうだ。お袋は、孝之の親父を、弟の様に可愛がっていたらしい。お陰で今でも親父は、『悪ガキの孝ちゃん』のままだよ。」
苦笑混じりにそう語ると、一慶は、胸ポケットから煙草を取り出して口の端に咥えた。
「だけどまぁ、お袋がお前を気に入ってくれた様で安心した。」
「気に入った?美野里さんが、ボクを??」
「機嫌好く笑っていただろう?あれは、そうとうお前を気に入った証拠だ。気に食わない奴の前では、途端に狂暴になるからな。」
「お花が良かったのかな…」
「いや。花だけじゃ、あんな顔はしないよ。嫌いな奴には、物を投げる事もある。」
「そっか…。じゃあ少なくとも、嫌われてはいないのかな?仲好くなれたら、ボクも嬉しい。」
「あぁ。気が向いたら、また会ってやってくれ。お袋も喜ぶ。」
「うん、勿論!」
薙は力強く頷いた。
一慶にそう言って貰えただけで、救われた気がする。彼の一挙一動が、薙を不安にも幸せにもする事に、彼女自身が驚いていた。
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