【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

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 フロントガラスに映る鉛色(にびいろ)の空を睨みながら、孝之は語り始めた。 甲本家は、鎌倉時代後期に、当主の血筋を三つに分けた。直系の血脈を補完する為の措置である。  下剋上の大戦が、遼原(りょうげん)の火の如く国中を焼き付くした時代。 霊的に国を鎮護する六星一座の負担もまた、年々に厳しさを増していった。 一座の中心を担う首座の役割は特にも重く、それ故、魂魄に掛かる負担も大きい。戦火が激しくなればなる程、首座もまた短命になる。当に、命懸けの日々であったのだ。  刹那の命を燃やす夏蟲の様に…次々に倒れ、代替わりしてゆく歴代の首座達。 先細る一方の血脈に危機感を覚えた、当時の金剛首座は、弟達を分家させて、『御三家』を創設した。  それが、鍵島家と錠島家である。 このニ家は、甲本の血脈を守るという意を込めて、『鍵』と『錠前』に例えられた。そして、甲本家を含む三家の中から、首座を擁立する仕組みを構築したのである。 《神子》の血脈を絶やさぬ為に編み出した、秘策中の秘策だ。  …ところが、江戸時代になって天下太平の世になると、それに伴い、御三家の立場にも変化が生じた。 直系筋の甲本家に対して、鍵島家と錠島家は、脇持(わきじ)として、補佐の役目を負うようになったのである。 「──以来、錠島家は北天、鍵島家は東天という風潮が、自然に定着した。勿論、偶には例外もあったがな。その流れに(なら)えば、いちは本来、生まれながらの北天として扱われる筈だったんだよ。」  そこへ、実父・慶之の謀叛(むほん)が起きた。 《禊》こと真行寺行定の罠だったとは言え、鈴掛一門に(くみ)し、一族を裏切った罪は重い。 何より。首座に刃を向けた事実は、慶之を仏法の仇である闡提(せんだい)と位置付けてしまったのである。
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