【三段目】浄魂の剣 六星剣 ―ロクセイケン―

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闡提(せんだい)ってのはな。仏を弑虐(しいぎゃく)しようと企んだ者の事を言う。()わば、仏教界の大罪人だ。一座に()いては、首座を亡きものにしようとした者が、それに該当する。」  やるせない口振りでそう言うと、孝之はジャケットの胸ポケットからクシャクシャになった煙草を取り出した。先の折れた一本を口の端に咥えながら、言う。 「闡提(せんだい)に堕ちた者の行く末は、無間地獄(むげんじごく)だ。生きている間も、あらゆる業苦を背負わねばならない。自分だけじゃなく、八代先の子孫までが、その罪を負わねばならないんだ。」 「八代先…そんなに!?」 「あぁ。いちの奴はな。その八代先まで続く罪の償いを、自分の代で終わらせるつもりなんだよ。」 「それ、どういう事?」 「──奴には、桐島亜梨沙(きりしまありさ)という婚約者がいた。簡単な結納も済ませて、後は式を待つだけだった。その幸せの絶頂で、彼女は急な病に侵された。」 「…知ってる。急性骨髄性白血病でしょう?祐介から聞いたよ。あっという間に激症化する、死亡率の高い病気だって。」 「そうか。知っていたのか…」  陰鬱に呟くと、孝之は溜め息混じりに紫煙を吐き出した。長くて短い沈黙が続く。
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