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電話の向こう側から、苺が自信満々で訊ねて来る。
『どう?アタシのコーデは気に入った???』
「うん…有難う、苺。助かったよ。」
『どういたしまして。ねぇ、薙。本当のところどうなっているの、あなた達?』
「別に…どうもなっていないよ。」
『本当に?アタシに隠し事は無しよ??』
「解ってる。何かあれば、真っ先に苺に相談するよ。今回の…アレは、その…お遊びみたいなものだから。一慶だって、本気でデートだと思っている訳じゃないよ──多分。」
言い訳しながら、自虐的な気分に沈み込んでしまう薙。そんな彼女に、苺は年上らしくアドバイスをした。
『馬鹿ねぇ。弱気になっちゃ駄目よ。もっと自信を持ちなさい!アイツがそんな風に誰かを誘うなんて、今だ嘗て無かった事なのよ?それほど画期的な事件なんだから!それにね。アタシ、少しだけ期待しているの。アンタなら、アイツを救えるんじゃないかって』
「救う?」
『そうよ。暗い迷宮をさ迷っているのは、寧ろアイツの方だわ。年季が入っている分、根が深い…。だから、アイツは『難しい』わよ?なかなか本音を語らないし、近付こうとすると、巧くはぐらかされてしまう。心の奥では、救いを求めている筈なのにね。決して誰の手も取ろうとしないの。そうやって、今も自分を責めているんだわ』
「…苺…」
『だけどアンタなら、アイツの心を融かす事が出来るかも知れない。いいこと、薙?今日は、目一杯気合いを入れて行くのよ!好い報告を待っているわ。じゃあね!!』
捲し立てる様にそう言うと、苺は一方的に通話を終わらせてしまった。
謎めいた彼女の言葉の数々が、薙をいっそう困惑させる。
情けない気分で眺める鏡の中には、シックなスリップドレスと、スモークグレイの薄いストールを首に巻いた、見慣れない自分が映っていた。
頼り無げな表情は、着馴れないワンピースに戸惑っている所為なのか──それとも、現状に混乱しているからなのか…。
捲るめく様な出来事に流されて、最早、自身の気持ちすら図りかねていた。
頭の中で何度となくリフレインしているのは、何気無く呟いた苺の言葉である。
「救う…ボクが、彼を?」
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