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プロローグ 世界で一番キミが好き
あ、今日の空、きれいだな。
ソーダとかミントとか。爽やかな味がしそうな澄んだ色の空に、素直な感想を抱く。まるでナインの髪の色みたいだ、と胸中で呟く前に背中から地面に落ちて息が詰まった。頬の痛みと、この衝撃さえなければ夢見心地な浮遊感なのに、とオレはわずかに咳きこむ。舞った砂埃で少し砂を噛んだ。唾、吐きたい。けれどそうしたら生意気だと相手の神経を逆撫でしてしまうかもしれないので、ぐっと我慢した。
オレは今、ギャップに殴られていた。一つ年上の上級生で、オウム返しするしか能のない双子の取り巻きを連れているやつ。殴られるのは、初めてじゃなかった。いつものことだ。大柄で粗雑なくせに、以外とマメなギャップは殴るにもいちいち理由をつけてくる。ただその回数が多すぎて、今日はどんな難癖をつけられて殴られているのか、もう覚えてなかった。
ギャップが吠える。あいつは散弾銃みたいに唾を撒き散らしているのに、オレは泡立ってざらつく唾液を、前歯の裏に舌で押しつけて持て余していた。早く、終わらないかなぁ。ため息を吐きたいのも我慢して、オレは倒れた視界に映る地面と空との境界線が水平になるよう調節する遊びをする。
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