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とん、とん、とん。
小刻みに三回叩かれる錆び付いた鉄の扉。
特に何も考えずにこれは開けるものだと立ち上がってドアに触れる。身体が覚えているような、懐かしい感覚だった。
突如として脳が己に制止をかけた。
聴覚が捉えた記憶から『やめてくれ』、『痛い』、『死にたくない』と死者の声が蘇る。それが己の奥底に潜んでいた恐怖心を沸かせた。
「く、来るな! 来ないでくれっ!!」
耳に残る叫び声を上げてしまうほどの痛みなど味わいたくない。そんな思いで叫びながらドアから離れる。心のどこかで自分は死ぬんだと思いながらも本能に基づいて自分は生にしがみついていた。
『あ、ごめん。驚かせた?』
死を与える者が扉の先にいる。そのはずなのに、どこか親しみのあるような声音が扉の向こう側から聞こえた。あまりにも場違いな声に拍子抜けしてしまう。
『安心してよ。ボクは君を助けに来たんだ』
助けに......?
そんなことがあるのだろうか。ここは死が定められた人々が来るところ。そう思っていたのだが。
『てか聞こえてるのかな? もしかして気絶しちゃってる?』
「き、聞こえてる」
『ならよかった』
「......」
『あれ、もしかしてボクのこと疑ってる? 大丈夫だって。言っとくけどこうしてる間に君に死が迫ってるんだよ』
それは確かにそうなんだが、なんだろう。死を免れようとしても結局自分は死に直面するような気がする。助けに来ても無意味なのでは。そんな不安を持ちながら扉に近づき、向こうにいる彼に訊いた。
「なんで俺を助けに来たんだ?」
こうして疑問を言葉にしてみればなんだか心が行くべき場所に嵌まってくる。
『君だからだよ、アオ』
そして呼ばれた自分の名前。
そうだ、俺はアオだ。いつの間にかここにいて、訪れる死を呆けて待っていたのだ。
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