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「じゃあ、始めます。手元は見えますか?」
「ああ、はっきりと見える。俺の事は気にしなくて良い」
そう言われても、その大きな存在感を無視出来る物では無い。跳ねる心臓を押さえながら、僕はゆっくりと魔道具に向き合った。
先ずは起動部に魔力を注いでみる。ドレイクさんの言ったように全く動く気配は無かった。次に魔道具のモノクルを取り出し、その魔力方程式を確認する。やはり、旧式だったが、知っている魔力方程式だった。乱れは明らかで、その上少し改変が加えられているので、そこはメモに書き足しておく。
次に、また普通のモノクルに掛け替えると、魔道具自体の全体の配置を確認する。行けそうだ、と思う。少し複雑な配置だが、しっかりと記憶した。小さな細いドライバーを使ってネジを回し始める。次々に使う道具を変えて、手際良く作業を行う。かちゃかちゃ、静かな音が暫く作業部屋には響いていた。小さな部品が、次々と出て来る。それを正しい順番に並べながら、それぞれの部品に関しても目を配った。
「ああ、この、歯車が折れてしまっていますね」
十一個目の部品の歯車が見事に真っ二つに割れていた。直ぐに棚から箱を取り出す。古い部品を入れている箱だ。三つ目の仕切りの中から、丁度合いそうな歯車を見付けた。それを、白い布の上に乗せる。部品は携帯魔力灯らしくネジも含めて全部で丁度二十個で出来ていた。簡素な造りだった。ただ、その中の一つ、心臓部に当たる魔石が明らかに酷かった。
「この心臓部の魔石の摩耗が酷いですね。これは交換が必要だけど……」
「魔石の交換? 聞いた事が無いが……」
意外そうな声が届いて、僕は苦笑を禁じ得なかった。魔道具職人や魔道具修理職人なら、誰もが知っている常識だが、意外に知られていない事が魔石の摩耗だ。
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