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「こっちに、取りに来て貰えるか? 近付くと、魔力放出してしまうかもしれないから」
「あ、今、行きます」
モノクルを外して手に持ち、白い布を部品にかぶせしっかりと保存の魔法を掛けてから、僕は席を立った。狭い店舗の中では、数歩でドレイクさんまで辿り着いた。
「これで、行けるか?」
「あの、これ本当に、バジリスクの魔石、ですか?」
手を出し受け取ると、本当に手の平大の大きさで、緑色に輝くそれは酷く美しかった。余計に疑わしく思えてしまう。モノクルを掛けようかと迷っていると、は、としたようにドレイクさんは僕を見た。あ、気付かれたな、と思う。
「……ああ、君は、見えないのか」
ドレイクさんは本当に意外そうに呟いた。それを耳にして、僕は唇を、きゅ、と強く噛む事しか出来ない。絞り出すように声を出した。
「……すみません」
「いや、こちらこそ、失礼な事を言った。モノクルで確認してくれてからで良い。加工は魔石屋に頼まないといけないだろう?」
「あ、いえ、魔石の加工も出来ます」
ドレイクさんに言われ、慌てて僕は彼を見上げると首を横に振った。まじまじ、とドレイクさんが僕の顔を見て来る。その、深い青い海の水のような瞳に、どきり、とまた胸が跳ねた。僕が一瞬で目を奪われた瞳だった。その左側には、よく見ると確かに魔方陣が刻まれている。
「君は、魔道具修理職人じゃないの?」
「魔道具修理屋ですけど、簡単な魔石の加工ぐらいならしますよ」
複雑な加工はもちろん魔石屋の職人に依頼するようにしていたが、僕が請け負う仕事で、それが必要な魔道具の依頼は今の所、一度として無かった。ほう、とドレイクさんの口から息が漏れた。多分、僕の勘違いじゃ無ければ、感嘆の息だった。
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