魔道具修理ファイル1102

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 相変わらず、かちゃかちゃと言う音が店内には響いていた。その間、一度も店の扉は開けられる事が無かった。如何にこの店が繁盛していないか分かる事だったが、ドレイクさんは何も言わず僕の手元だけを見詰めていた。  ふう、と一息吐いてから、棚の上段から特別な油の瓶を取ると、使い古した布の上に垂らし、きゅ、きゅ、と磨きを掛ける。そして、特別な粉を塗り込む。磨きだ。丁寧に、部品ごとに動作を繰り返す。これを遣るのと遣らないのとでは、持ちも魔力伝導率も大分違うのだ。 「こんなもんかな。後は、さっきの台座に入れて、と」  魔石を魔道具の心臓部に組み込み、また、一から組み立て直して行く。最後のネジを止め、魔道具の白い布から取り上げ、そうっと起動部に魔力を通すと、ほんのり明るく携帯魔力灯は光を放った。くるくる、と方位磁針の針の紅い部分も北と思われる方角を指し示した。すかさずモノクルを掛け変える。 「ああ、大丈夫ですね。魔力方程式も乱れは無いし」  魔力方程式は、綺麗に整っていた。魔力の放出を止め、にっこり笑顔を見せると、ドレイクさんは、がた、と音を立てて椅子から立ち上がる。 「凄いな……本当に、君は、綺麗な仕事をするね」  短いが、物凄く心のこもった称賛だった。途端に照れてしまって、僕はあわあわと手を振りながら、けれどもそれをしっかりと受け止めるべく頭を下げる。嬉しかった。 「ありがとうございます」 「こちらこそ、本当に色々と珍しい物を見せて貰ってありがとう」  もう一度お礼を言われて、困ってしまう。僕は大した事はしていない。ただ、ちょっと古くて変わった型の携帯魔力灯を直しただけの事だった。いつもの事だ。油まみれの手で頬を掻くと、作業椅子から立ち上がりドレイクさんを手招いた。
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