魔道具修理ファイル1102

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「もう、組み立ても終わって問題無いですから、こちらに来て、使用感を確認してください」 「ああ。そうさせて貰う」  長い脚はたった五歩で作業台まで来る。ドレイクさんは待ち切れないと言った様子で手を伸ばして来た。その大きな手の中に小さな魔道具を乗せる。起動部に太い指が触れた。たちまち煌々とした灯りが、魔道具からは零れていた。ああ、綺麗だなと思う。魔力量が多いのだな、とも。何度か灯りはその質量を変えて、そして、消えた。 「……くっ、本当に、ありがとう。前より、明るいくらいだ。魔力の調整も簡単になっている。磨きまで遣ってくれたのか?」  ドレイクさんは涙を堪えているようだった。その顔を見ないように、僕は視線を逸らすしか無かった。きっと自分なんかに涙を見られたくは無いだろうと思ったからだ。 「ええ、まあ、あの……」 「もう、駄目かと思っていたから、本当に、有り難い。これは、俺だけじゃなく俺の親父や祖父さんの思い出も一緒に積み重ねて来た、本当に大事な代物なんだ」  なのに、ドレイクさんはしっかりと僕に向き直るとしみじみとその思い出を語った。ああ、直せて良かったな、と僕の顔は思わず綻んだ。 「良かった。そう言う古い物って意外と良い物が多いんですよね」  僕は、当たり前の事を当たり前に言っただけだった。なのに、ドレイクさんは顔をくしゃくしゃにしてみせた。 「本当に、ありがとう!」  そう言うと、がば、と力強く分厚い胸に抱き寄せられて、僕が声も無く立ちすくんだのは、言うまでも無い。  ちなみに、修理代は、何と破格の銀貨二枚を渡されてしまった。散々断ったが、最後にはぎゅと手を握り締めあの透き通るような青い目で熱く見据えられて、照れもあったし弱り切ってしまい受け取ってしまったのだ。 「また、是非、修理が必要な物があったら、頼みたい」  そう言った柔らかい声が、きっとお世辞だろうけど、嬉しかった。いつでもどうぞ、と返して、僕はドレイクさんを店から送り出したのだった。それが、新たな出会いの始まりだったとは思わずに。
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