魔道具修理ファイル1044

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「はい。大丈夫です。わあ! 古い型の蓄音機ですね!」  現れた魔道具の全容を見て、僕は思わず大きな声を出していた。蓄音機、と言うのは、音声や音楽を凹凸や左右の振動と言う形に録音してそれを増幅して再現する魔道具だった。非常に作りが複雑で、円盤に記録をし、それを針で読み取り増幅する今の形になるまで、色々な試作機が出たと言われている。ところが、最近は技術の進歩によって、より簡略化された録音機と言う物が出回っていて、蓄音機は見なくなっていた。 「凄いなぁ。ああ、これは円盤も使う型なんですね」  円盤も内蔵されている歯車も絡み合ったこの型は、慎重に扱う必要があった。少し構造が複雑になっていて、振動に弱いと言う欠点があった筈だ。 「今じゃ見ない型だろ? この頃は録音機なんてのが主流になっていて、蓄音機はすっかりお払い箱だ。でも、私はこの蓄音機が好きなんだ」 「うーん、見れば見るほど立派ですね。購入時は大奮発されたんじゃ無いですか?」  思わず不躾な事を聞いてしまった僕を気にせずに、女性は初めてにっこりと笑うと、自慢げに胸を張ってみせる。えくぼが右側だけに出来る可愛い笑顔の人だった。ずっと笑っていたらもっと素敵なのにな、と頭の片隅で思う。 「そうでも無いさ。私はこう見えて大店の主の後妻でね。旦那が、私が音楽が好きだと知って買ってくれたんだ」 「そうですか。素敵な旦那様ですね」  夫婦の良い話に僕がつい口を挟んでしまうと、きょとん、とした顔をしてから、女性は首を傾げて聞いて来る。 「アンタ、結婚は?」 「まだ、です。多分、この先も無いかな」  ずばり聞かれて、苦笑が滲んだ。素直にそう言うと、意外そうに僕を上から下まで見ると女性は頷いた。結婚が無い、と言えば、大抵の人間は僕の性的指向を分かってくれる。彼女も例に漏れず察してくれたみたいだ。 「ふーん。アンタ、男色かい? そうは見えない顔だけどね。で、直るかい?」
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