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「ちょっと、モノクルを取って来ても良いでしょうか?」
いつもは肩掛け型の魔法鞄の中に入れている魔道具のモノクルは、さっきまで作業をしていたせいで、作業台の上に置いてあった。問い掛けると、大きく目を見開いて女性は大声を上げた。
「アンタ、見えないのかい!?」
僕が見えないのは事実だけど、それを突き付けられると、ちょっと胸に来るものがあるのも事実だった。きゅ、と奥歯を噛んで、それから少し頭を下げると、僕は震える唇を開いた。また客を失ってしまうかもしれない、と言う心配が強く胸を打った。僕の店のような小さな店は、一人の顧客でも失うと痛手だった。仕方の無い事だけれど。
「……すみません。その、心配でしたら、別の修理屋をご紹介します」
「私は事実を聞いたんだよ。アンタが直せるってんなら、アンタで良いさ。別の店って言ったら遠いんだろう? 運ぶのは正直手間だからね」
「すみません。分かりました。ありがとうございます。詳しく見る為にモノクルを取って来ますので、少しお待ちください」
だけど、女性はそんな僕の胸中を知ってか知らずか、そう言ってくれて嬉しくなる。ぱ、と顔を上げてから、少しだけ頭を下げると、僕は急いで作業台に行きモノクルを取って戻って来た。
「お待たせしてすみません。えっと、それじゃあ、見せて貰いますね」
「頼むよ。きっちり修理してくれるってんなら、料金は幾らでも出すよ」
よっぽどこの魔道具に思い入れがあるらしい。僕はそれだけでこの女性が好きになってしまった。嬉しくて首を横に振る。
「いえ、これだけの素敵な魔道具に触れさせて頂けるだけでも楽しいので、料金は正規の値段で結構ですよ」
「珍しい子だね。古い物が好きかい?」
彼女も見える訳では無いだろうに、僕が魔道具のモノクルを掛けた隣で蓄音機を覗き込んでいた。いや、もしかして、見える人なんだろうか。
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