魔道具修理ファイル1044

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「悪いかい?」  シニードさんは悪びれずに聞いて来るが、呆れ返ってしまって、僕は溜め息を抑える事が出来なかった。 「勇気のある行動ですが、無謀過ぎます。傷のせいで魔力の伝導率は落ちますし、恐らく組み立てる順番の狂いで魔力方程式は大きく乱れちゃってますし、そもそも、万が一戻せなかった時が、一番問題です! 魔力暴走が起きないとも限りませんから!」  僕が一気にまくし立てると、シニードさんは、今度はバツが悪そうに俯くと唇を尖らせた。そして、小さく声を絞り出す。 「……直せると思ったんだよ」 「つまり、何回かやっているって事ですね?」  僕が核心をつくと、シニードさんは両手を上げて肩を竦め、大きく溜め息を吐いた。 「バレるもんだね……今までは平気だったんだが、今回はお手上げさ」  正直、もう苦笑いしか出来なくて、僕はうーんと唸って、もう一度、蓄音機をモノクル越しに見てみた。やっぱり、魔力方程式が大きく乱れているのは、傷のせいと言うよりは、組み立ての何処かの段階での問題が生じているとしか思えなかった。 「とりあえず、分解しても良いでしょうか? あ、急ぎで無ければ、一旦預かってからでも良いんですが」 「出来れば今直ぐ取り掛かって欲しいね。蓄音機はこれしか無いのに、私はこれが無いと眠れないんだ」  僕が提案すると、シニードさんはむずかるように首を横に振ってそう言った。蓄音機を睡眠薬代わりにするとは、お洒落で素敵な使い方だ。ちなみに、睡眠薬とは、危険性と依存性が高い秘薬の一種で、特別な許可が無いと使えない薬の一つだ。僕も学校で一度しか見た事がない。 「寝る時に使っていらっしゃるんですね。特急料金を頂ければ、今直ぐ遣りますが」 「構わないよ。払えるだけの財力はあるからね」  細かい金額を言わなくても大きく頷かれて、少し戸惑ってしまったが、まあ、作業の前に説明すれば良いかと納得して足を動かした。
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