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「では、このまま、作業台の方に運びますね……えっと、」
「見てても良いだろう?」
僕の動きにぴったりとくっついて来るシニードさんに驚いていると、当然のようにそう言われて、僕は頷くしか無かった。ただし、一言しっかり忠告はする。
「もちろん、構いませんが……魔力放出はしないでくださいね?」
「私に、そんな魔力は無いよ。使えるのは精々生活魔法くらいさ」
「それも魔力干渉につながると困るので、絶対に使わないでください」
僕がきっぱり言うと、シニードさんは、神妙な顔をしてしっかりと頷いてくれた。
「分かったよ」
答えを貰って安心した僕は、作業台の上に乗っていた作業中の魔道具を先ずどうにかしようと思って腕を捲る。その魔道具は小さな物だったので、いつも使っている魔力を通さない白い布にそのまま包んで、店と続きになっている家の中に置く事にした。この店の作業台は二つの魔道具が置ける程大きくは無いのだ。次に、僕が持っている中では一番大判の白い布を広げると、カウンターに取って返して、慎重に蓄音機を抱えて運んだ。ちょっとだけ、三歩と言う距離が長く感じたのは内緒だ。ふう、と息を吐いて、最後にいつもメモ帳にしているノートの裏紙を引っ張り出す。
「大体の概算ですけど、作業量と特急料金とで、このくらいになります」
僕がさらさらと書き込んだ後に、まとめた金額の銀貨二枚と銅貨五枚を書き込むと、シニードさんはそれを覗き込んで、それから驚いたように目を見開いて、僕の顔を見ると口を開いた。
「安いね!」
「部品交換代が、もしかすると必要になるかもしれませんが」
それが、ちょっと高くなってしまうかもしれなかった。申し訳無いが、ここは譲れない所だった。だが、シニードさんは大きく頷くと事も無げに言う。
「そこは、任せるよ」
余りの物分かりの良さに逆に驚いてしまって、僕は不安になったが、まあ、最終的には何とか折り合いを付けようと思った。
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