魔道具修理ファイル1044

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 僕は作業椅子に腰を落ち着けると、大きく息を吸って吐いて、いつものように集中する。 「分かりました。じゃあ、開いて行きますね」  いつの間にか、店の入り口から持って来たらしい椅子に座って、僕の手元を覗くシニードさんは、意外にもしっかり適度な距離を取ってくれていた。 「この店はしみったれているってのに、アンタ、良い工具を持っているね」  そう言うシニードさんの言葉は辛辣だけれど、優しい声音だった。思わず笑みが零れてしまう。 「ありがとうございます。ほとんどが、父や祖父の遺産なんです」  正確には、遺産だった工具を道具屋に売って手に入れたお金で買った工具が多かったのだが、まあ、そんな細かい所まで、シニードさんも知りたいとは思わないだろう。 「ふうん。親父さんも祖父さんも魔道具修理屋かい?」 「いえ、二人共、魔石屋でした」  僕の手は、シニードさんの声が掛かっても、自分が言葉を出しても、微塵も揺らがない。手先の器用さと正確さ、これだけは自信のある事だった。 「そうかい。器用な所は、二人の遺伝だろうね」 「……ありがとうございます」  本当にシニードさんの声は優しいな、と感じた。目の奥が少し熱くなってしまって、僕は必死になって目をしばたたかせると、作業に集中する事にした。  蓄音機の部品は、全部で五十三個だった。だが、うーん、と思う。奇数は基本的に魔道具設計士は嫌う傾向にあるのだ。魔力方程式が崩れ易いからだ。多分、何度か分解している内に部品を無くしてしまったのだろう。魔力方程式を都度確認しながら、正確に一から順番に部品を並び替えて行く。四十二番目にやっぱり何か必要な部品があった形跡が見られた。単なる羽目板だけど、これがあるのと無いのとでは、魔力方程式の綺麗さが違うだろうし、僅かな違いだけど、中心の歯車の回転にも影響していると思われた。 「部品は、これで全部ですね。中心の歯車が綺麗に割れているので、それは交換しましょう。それから、このネジはちょっと破損が酷いので交換します」
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