魔道具修理ファイル1044

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「……傷付いた部品を全部変える事は出来るかい?」  シニードさんは、バツが悪そうな顔をしながら問い掛けて来る。僕は苦笑しつつ、首を傾げた。 「それも出来ますけど、部品交換代が結構掛かってしまいますよ?」 「構わないよ。経済力には問題は無いって言っただろう?」  こう言うからには、シニードさんがお嫁に行った先はよっぽど良いお店だったらしい。 「そうでしたね。じゃあ、傷が目立っている部品は全部変えて行きますね」  幸いにして、僕は古い部品を作る事もやっているから、傷付いていた全ての部品を交換する事が出来た。実は、殆どの部品が交換対象になったのは、言うまでもない。僕が棚から部品を取り出す度に、シニードさんの眉間に皺が寄ってしまったのは、とても申し訳無かったけど、仕方の無い事だった。 「じゃあ、磨きをしてから、組み立て直しますね」 「磨き?」  僕は、棚の一番上から特別な油の瓶と粉の缶を取ると、いつものように使い古した布を取り出して言った。シニードさんには聞き慣れない言葉だったのだろう、繰り返される。 「特別な油を使って部品を磨きながら、特殊な粉でコーティングをするんです。これをするのとしないのとでは、魔力伝導率も持ちも全然違うので、お勧めしたいんですけど」 「それも追加料金が掛かるのかい?」  僕が説明すると、ふうん、と小さく頷いた後で、そんな事を聞かれる。慌てて首を横に振った。 「あ、これは、サービスなので」 「……そうかい? じゃあ、やっとくれ」 「はい」  了承を貰うと、一つ一つ磨いて、油で磨き粉を塗り込んで行く。ただの部品が愛おしく思える瞬間だ。てきぱきと、でも、正確に行った後、両手の油を拭って、また工具に持ち替え、組み立てを始める。モノクルを変えながら、魔力方程式を確認し、細かい部品、大きな部品、薄い部品、小さな部品、全てを順番通りに組み立てて行く。最後に魔道具のモノクルで魔力方程式を確認すると、最初とは違って、全く乱れの無い美しい方程式が現れた。
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