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満足して、モノクルを外し、首に掛けたタオルで汗を拭うと、そっと少しずつ白い布から魔道具を下ろした。そして、しっかり水平に置かれている事を確認し、起動部に魔力を注いでみる。『ぶおんっ』と音を立てて魔石が一瞬光った後、静かに円盤が回り始め、針が自動的に降り、音が店内に響き渡った。始めのその曲は、僕でも知っている、祖父もよく祖母に歌っていた古い愛の歌だった。
「ああ、ああ、動いた!」
魔力の出力を止めても、魔石の力で円盤が回り続け、歌は延々と流れていた。うっとりとシニードさんが聞き入っているのを見て、仕方が無いかな、と流れるままに僕は待つ事にした。結局、止めるタイミングが分からなくて、円盤の全部を聞く事になった訳だけど。
「ああ、本当に、良い曲ばかりだねえ。どれも懐かしい曲だったよ」
うっとりとしているシニードさんに向かって、僕は促すように場所を譲った。
「すみません。一応、使用感を確認して欲しいのですが」
「おや、もう一回流して良いのかい?」
「……今度は途中で止めて貰えると嬉しいんですけど」
きらきらと輝く瞳は、少女のように美しくて本当に嬉しそうで申し訳無かったけど、さすがにこれ以上時間を取られるのは辛かったので素直にそう言うと、シニードさんは、ふん、と鼻息を荒く吐いた。
「無粋な男だね! 最初の歌のワンフレーズは聴かせて貰うよ!」
「はい」
僕が頷くと、シニードさんは素直に僕が元居た場所に立って、魔道具の起動部に魔力を流していた。
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