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「見ろこの有り様を!敵も味方もお構いなしに毒爆弾をぶちまけたのだろうさ奴らは!お陰で皆毒素にやられている。この人数の兵士一人一人に解毒薬を飲ませて回ると言うのか!それも我々だけで!全員助けるには到底間に合わん!大多数が苦しみにのたうち回って死んでしまうだろうな!」
私の吐き出す怒号にじっと耐えていたアイナは、やがて口を開いた。諭すような、穏やかな口調だった。
「人手が足りないとおっしゃるなら、麓の基地に戻って応援を要請しましょう。二人よりはきっと」
「だめだ!防毒マスクが足りない。戻る時間の割りに大した増員は見込めない」
「それなら、私たちだけでも、救えるだけ救いましょう」
「………君は。君はできると言うのか?四方から助けを乞われるその中で、救う命を選択することが」
私には、できない。
アイナも「それは…」と言い淀み、ついには黙ってしまった。
心なしか、雨足が強くなった気がする。
私は再び空を見上げた。
まだ日中のはずだが、燃えかすを集めたような分厚い雲に遮られて光は見えない。
…………見えないじゃないか。希望なんて。
空から落ちてくる雫で滲んだ視界に瞼を下ろすと、またいつもの気難しい顔かぁ?と、おちょくってくる親友の顔が浮かんだ。
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