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「で、今度は何につまづいてんのよ」
記憶の中の彼は、いつだって笑ってそう言いながらアメ玉の入った缶を差し出してくる。煤で汚れた白衣がふわりと風になびく様子は、なんだか遅れてやって来たヒーローのマントのように見える。
私が片方の手のひらを上に向けると、彼はそこに一粒アメ玉を落とす。それを口の中に放り込んでぶっきらぼうに言う。
「理論上は間違っていないはずなんだ。だが、実際にマウスに投与すると、明らかな拒絶反応が出る」
「例の新薬の開発か」
私は当時、不治の病について研究していた。
その病があるウイルスによって発現するということをつきとめ、そのウイルスに対抗する物質を作り出したところまではいい。しかし、無害なはずのその物質は生物の体内に入った途端に毒となる。臨床試験ができるほどの安全性を、どうしても確保できなかったのである。
「お前の研究は俺の専門外だから、細かいことは何とも言えないがなぁ」
そう前置きして、彼は天を仰ぐ。
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