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「上を向いてみればいい。希望なんてのはそこら辺に転がってるもんだが、這いつくばって地面ばかり血眼で探したところで見えやしない。視点を変えて。発想を変えて。ついでに心を上向きにする。そうすりゃ自然と見えてくる」
「そう簡単にできるなら、誰も苦労はしないさ」
「できるだろ?お前なら」
一体、何を根拠に言っているんだか。
上を向いたまま無邪気に笑う横顔をこの目で見ることは、もう二度とない。
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結局私の研究は、より人体に有害な毒素を生み出したに過ぎなかった。私はこれを世には出すまいと厳重に蔵入りさせた。それなのに、どこから情報が漏れたのか、研究は実験所の火災の騒動と共に盗まれた。挙げ句に、その騒動は当時実験所に籠りきって作業をしていた親友の命をも奪っていった。残されたのは、浮力を研究していた彼が試作していた、格納庫で眠る飛行船だけだった。
せめて自らの不祥事は自分の手で始末しようとここまで来たが。
「………かせ」
ややりだめだった。私があんな研究を無理に進めなければ。
「はかせ」
あれだけ強力な毒爆弾をこんな短期間で作られることはなかった。
「博士」
彼だって巻き込まれて死ぬことはなかった。私のせいだ。
「………博士、失礼しますっ!」
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