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アイナの足の先は既に飛行船の方を向いていた。
こうすると決めてしまったからには一秒でも惜しい、とでも言いたげだ。
「はい。最初から博士は、苦しんでいる人を放っておけない方です。あそこにいるのは、もれなく苦しんでいる人です。もれなく全員助けたいと思っているんでしょう?」
「だから、そんなことは無理だと」
「助けたいんでしょう?」
圧力に負ける形で頷く。
だが、できることなら助けたいと思っていることは確かだった。
苦しんでいる人を救いたい。
元より、私の研究の目的はそこにあったのだから。
アイナは笑って見せた。
「なら、できます。………私には目の前の一人一人しか救えないですけど、博士なら」
無茶苦茶だ。
あいつといい彼女といい、何を根拠にそんなことを言っているんだ。
私など、ろくな実績もないただの研究者だというのに。何の力もない男だというのに。
アイナは飛行船へと歩きだす。それを呆然と目で追う。
私はどうしたらいい。何を考えたらいい。
髪を、顔を、身体を伝って穴という穴に雨水が流れ込んでくる。
あぁ、鬱陶しいったらない。畜生。ちくしょ………。
「そうか…………そうか!」
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