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「嫌だ! 普段眼鏡だから、眼鏡外すだけで一種の変装になるって言ってたじゃないか」 「それはアイメイクの話な。おまえは鼻が細くて高いから、青寄りのを入れてもいけそうだ」 「嫌だって!」 「会社で理不尽な目に遭いそうになったときもヤダって言えよ」 「……」  言ってどうなる、というのが俺の本音だ。  嫌みを言おうと怒鳴ろうと慕われる杉田と違い、俺は周囲と自然な関係を保てない。常に忙しくしていなければ、ひとりでぽつねんとしている羽目になる。学生時代はどうにか周囲に溶け込もうと足掻いていたが、就職してそういった努力は放棄した。忙しい素振りを見せればひとりでいても浮かないことに気づいたとき、ようやく解放されたのだ。  岩崎とは長い付き合いになるとは言え、彼が知るのは学生時代の俺だ。家庭環境が悪く孤立していた岩崎と、孤立していると思われないよう身構えていた俺。今も昔も友人とは言えない間柄だが、人間の根っこの部分を知っているのは互いだけになった。  岩崎がため息を吐き、言いたくなさそうに続ける。 「何も言わないから舐められる。アメリカ行く話も結局泣き寝入りしたままだろ」 「……その話はしたくない」 「目玉上」     
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