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 指先を眉の上辺りにかざされると、つい目をそちらに向けてしまう。その隙に眼球に冷たいものがくっついた。装着はともかく、外すのが嫌だ。 「こんなもんか。俺も支度するから着替えて」 「ファンデーションは? 今日はいいのか?」 「着替えてから」 「あ、そうか」  今日は、背がほとんど裸とは言えパンツスタイルなので、気分が軽い。さっさと脱いで着替えた俺は、戻ってきた岩崎に後ろ姿をチェックされ、ボクサーパンツが見えていると怒られた。  着替えが置いてあったソファの傍らに、黒い靴下のような布が落ちている。まさか、と広げてみると、黒いレース地と紐で構成された小さな下着だった。 「……これ履いたら、俺の尻半分くらい出ることにならない?」 「おまえの尻に興味持つ奴はいない」 「嘘つけ、ゲイばっかりだろ……」 「だからだよ。女なのか男なのか分からない格好してる奴に興味持つゲイはいない。さっさとしろ、ハイヒールよりましだろ」  そう言われては従うしかない。  まあ確かに俺の心配は自意識過剰だ。いくら岩崎のメイクが上手くても、少し話せば俺が面白みのない人間だということはすぐに分かる。それどころか、紀谷のように怒り出す人間もいるだろう。  余計なことは言わないようにしようと決め、小さな下着を引っ張ってせめて伸ばした。
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