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 俺がここにいるのは、ウィッグのカット技術やメイク、岩崎の知り合いが作っている服やアクセサリーを宣伝するためだ。だから社交的に振る舞う必要はない。俺に目を留める人は岩崎が作ったスタイルに興味があるだけで、俺は気を回す必要も話題を探す必要もないのだ。  なのに話しかけられる。俺も緊張していないので、結構会話が弾んだりする。会社では猫なで声で何か頼まれるか、杉田に小言を言われるだけの俺がだ。  おかしな話だが、年に二回のこのパーティがひそかな楽しみになりつつあった。 「そういえば、あなたって岩崎くんの専属? ユニセックスのイメージモデルを探してる子がいるんだけど。会うだけ会ってみる? 今日来てるらしいのよ」 「素人ですから、そういうのはやめておきます」 「モデルって言ってもぼうっとしてればいいのよ、写真撮られたりスケッチされたりはすると思うけど。モノ作りしてる人で、インスピレーションを与えてくれる人を探してるの。ミューズってやつ。あなたなら絶対お眼鏡に適うと思うのよね」 「何を作ってる方なんですか?」 「そうねえ……、色々ね。センスはいいのよ、すごく。ちょっとやさぐれてるけど」  きょろきょろと会場を見回していた彼が、ふいに舌打ちでもしたそうな顔になった。  こちらに近づいてくる男がいる。金髪に白いスーツ、ピンクのシャツ、ヒョウ柄のネクタイという趣味の悪さだが、ひょろりとしていて学生のように若い。 「カマミちゃん、カノジョ知り合いなの? 紹介してよ」     
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