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悪趣味男はわざとらしくしなを作る。
気のいいマミの真似をしていることは明白だった。顔に出すなと岩崎に言われたばかりなので、俺は苦労して無表情を保ち目をそらす。
「あっち行きなさいよ。この子はあんたとは住む世界が違うの、寄らないで」
「へっ、底辺同士仲良くしようぜ。なあ」
「図々しい。ゲイでも何でもないくせにこんなところにまで出入りして、卑しいったらないわ。あんたの大好きなオニイチャンは今日来てないんじゃない? 愛想尽かされちゃったかもね」
マミの表情と声音に、本物の嫌悪感が滲み始めている。マミさん、と小声で呼ぶと、彼は俺を振り返りにっこり笑った。
「あ、呼ばれてるんだったわね。カードありがとうね」
「……こちらこそ。また後で」
「おい、シカトかよ! 感じ悪いなあ!」
声を張り上げる悪趣味男から、マミが大きな身体で庇ってくれる。その広い背中を拝みたいくらいだった。岩崎に頼んで、後で礼をしてもらわなければならない。
会場内に、その岩崎の姿が見えなかった。ああ見えて酒に弱いので、どこかで休んでいるのかもしれない。
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