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 白スーツ男の声は遠ざかっていく。俺を探していたわけではなかったようだ。  それはそうか、と思う。先ほど声を掛けてきたのも、俺というよりマミに絡みたかっただけに違いない。そもそも俺は男とも女とも取れる格好をしているので、ゲイには興味を持たれないし、異性装好きの連中にもスルーされる。岩崎にも言われた通り、半端なのだ。  間近にいる男が、うんざりしたように息を漏らした。白スーツ男が探していたカズタカはこの男なのだろう。 「……申し訳ない、不躾な真似を……」  膝立ちになって後ずさろうとした俺の背を、男の手が制止した。 「待って。ピアス」 「え?」  彼は俺の膝のあたりから何かを拾い上げたようだ。その動作は何となく分かるが、俺からは彼の手も顔もピアスもまったく見えない。目を凝らしていると、首をかしげたような気配と共に左の耳朶に触れられる。  顔に近い場所にいきなり触られたらびっくりするに決まっているのに、不思議と緊張しなかった。男の体温に慣れてしまったからかもしれない。 「あ、俺は穴開いてないので……。よく見えますね」 「君の顔も見える」 「本当に?」 「鳥目なのか、それとも本当に鳥か」  突拍子もない発想をする男だ。潜められた声には吐息が混じっていて、感情を読みにくい。     
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