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 男が下着を引き上げる度に、押さえつけられる部分がどんどん張り詰めていくのが分かる。甘さのある痛みに、身体中が汗ばんでいく。もっと布越しに擦って欲しい、擦らないでじんわりと押すだけにして欲しい──そんな矛盾した欲望を汲み取ったように、刺激は性器より後方に移動した。下着の中に入り込んできた指が、脚の間の薄い肌をゆっくり、しかし強く撫でる。 「あぁ、やっ」  いつの間にか俺は男の肩にしがみついていた。自分の喘ぎ声が、男と俺の胸に囲まれた狭い空間に響く。  それに混じって、パチンと音がした。腿を弾かれた感触があり、驚いて硬直する。  狭いところに押し込められていた性器が、圧迫を感じなくなっていた。開放感を覚えるより先に、背の汗が冷えていくのを感じ取る。 「ごめん、紐が切れた」  するすると脚の間から布が取り除かれていく。  男からも、俺が突然我に返ったことは見て取れたようだった。警戒する俺にそれ以上妙な真似を仕掛けてくることはなく、自分から距離を取ってくれる。  腕時計を見るような間の後、彼が立ち上がった。 「長居してしまった。歩ける?」 「……あの、下着」 「連絡先を教えて。駄目なら記念にもらっていく」 「こ、困ります。借り物なので」 「なら連絡先」 「……俺は……手伝いで連れてこられただけで、本当は、……こういうのは……」 「俺も」  男は息を吐くような笑い方をする。意味を取り損ねて目を瞬くと、逞しい肩のシルエットが上下した。     
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