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「信じてもらえないだろうけど、俺も別に男が好きなわけじゃない。君を女性だと思ったわけでもないが。だから君に興味がある。君も、なぜ逃げ出さずにいたずらされてしまったのか不思議だと思わない? もう一度知り合うところから始めてみるのはどうだろう」  普段でさえ断りの言葉を口にするのが難しい俺は、こんなときでも、とりあえず了承してこの場さえ切り抜けてしまえば、などと考えてしまう。  しかしここは会社ではない。身元の分からない人間と下手な交流はできない。そう考えると今更ながら血の気が引く。どうして逃げもせずされるがままになってしまったのだろう。 「いや、そんなに悲壮な顔しなくても」  参ったな、と男は長めの髪を掻き上げる。本当に俺の表情が見えているらしい。  彼は今立ち上がっているので、塀より高い部分のシルエットなら見て取れる。俺も一応平均身長はあるが、それより十センチはゆうに高いだろう。  ややして彼は、小さなカードを俺に握らせた。名刺だと分かる。 「個人的に知り合うのが嫌なら、ビジネスでどうかな。ちょうどモデルを探していて……と言うとまた誤解されそうだが、裸になるようなものじゃないし、顔出しもない。君には一切触らない。今日の話も二度としない。とにかく俺は君に興味がある。これきりなんて言わないで」     
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