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 そんなモデルがあるはずがない。大体なぜ俺にそんなことを頼もうと言うのか。思い切り怪しみながらも、イメージモデルを探している人間がいるというマミの話を思い出していた。岩崎からも、マミは信用できると聞いている。マミが紹介しようとするくらいなのだから、警戒すべき話ではないのかもしれない。  しかし、はっきりと顔を見ることもなくそんな話を持ちかけるのは、怪しいとしか言いようがない。 「連絡待ってる。人質は大事に扱うよ」  踵を返して庭に出ていく姿は、やはり堂々たる体格だ。俺なんかよりよほどモデルに向いている。 「……変態だ」  今頃言っても遅いと分かっていても、言わずにいられなかった。芝生を踏む足音が遠ざかってから、俺も仕方なく立ち上がる。  脚が──正確には股間がすうすうして頼りない気分になる。岩崎にはどう言い訳すればいいだろう。  重い足を引きずって戻りながら名刺に視線を落とした俺は、思わずそれを投げ捨てそうになった。  ──キャラメルバニラ主宰 紀谷和孝。  よくある苗字ではない。会議室で顔を歪めて笑った男の長身を思い出す。そういえば、白スーツ悪趣味男が、カズタカという名前を口にしていなかったか。  最悪だ。俺は二日連続、こいつに尻を揉まれたらしい。     
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