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 結局岩崎には、悪趣味白スーツ男を無視したらつきまとわれそうになったので隠れていた、と説明した。岩崎にはすぐにそれが誰のことなのか分かったようで、あれは別の奴につきまとおうとしてたんだと思うけどね、とのことだった。結局下着は、一度履いたものを返すのも何だから、と財布を出してみせたところ、また使うから大事に保管しておくようにと言われ、それだけで済んだ。  あの変態が大事に保管しておいてくれるに違いない。当たり前だが、名刺に記された住所を訪ねるつもりは一切なかった。岩崎にああいう場に連れて行かれるのは年に二回のことだから次は半年後だし、先日紀谷との打ち合わせを担当したのもあくまで杉田の代理だ。会社で顔を合わせることは二度とない。  大丈夫、あの一晩のことは俺の人生に何ひとつ影響を及ぼさない。紀谷が何を企もうと、あの夜の姿の俺を捜し当てることはできない。  という俺の確信を、一本の電話が打ち砕いた。  応対したのは杉田だ。はいはい、なるほどそうですか、お待ちしています、と普段の調子で会話を終わらせた彼は、俺の席へ来てこう言った。  ──こないだのルームウェアの紀谷さん、五時に寄るから少しだけおまえと話させてくれって。  つまりばれたのか?     
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