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「私どもが一番重視するのは、誰が買うのかということです。今のお話ではこれがすごく明確でした。ホテル街にある、女性をターゲットにした界隈。利用者は風俗関係の女性、男性、ホテルを頻繁に使うカップル、互いに実家暮らしの学生、不倫カップルもいることでしょう。過激な煽りが書いてある箱なら女性は目をそらしてしまうでしょうけど、一見何なのか分からないかわいいデザインなら手に取ってもらえる可能性が高くなる。自分からそういったものを使いたいとは切り出せなくても、これ何だろうと言って、相手の反応を見ることもできる。色々案はあったと思いますが、上品な花柄にしたところがすばらしい戦略ですね。清楚なものを手に取ることで、男性へのアピールになる」 「……褒めてもらえるのは光栄だが、そこまで細かく考えたわけじゃない。営業の悩みから出発したものだしな」 「女子高生のほうは、お店でセンスのいい大人っぽい小物を見つけて、友達に自慢したくなって買う、ということを想像されてましたね。働く女性のほうは?」 「働く女性……」  唸りを上げた紀谷は、数秒も悩まない内に、わからん、と一言結論を出した。早すぎる。 「せっかくいらしたんですから、ちょっとお付き合いましょうか。コーヒーいかがですか?」 「いや、持ち帰って考える。……店開けなきゃならないから」  彼は立ち上がりながら、悪いな、と唇を曲げて付け加える。不承不承といった表情だ。 「いえ、お忙しい時間に来ていただいてしまって……。お店ってこの近くなんですか?」 「さっき言ってた女性向けの店が、ふたつ向こうの通りにある。まあ、あんたみたいなのは寄りつかない界隈だろうな」 「はあ」  この会社があるのはオフィス街だが、ふたつ通りを隔てた辺りはいきなり歓楽街だ。俺は確かに足を踏み入れたことはないのだが、岩崎が副業で出入りしているキャバクラがそこにあるということは聞いていた。     
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